相続財産が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合、通常は相続税の確定申告が必要です。
相続税の確定申告を完了し、納税した後も安心はできません。なぜなら、最終的なチェックとして税務調査が行われるからです。
税務調査を無事に通過することで、相続税の納税プロセスが完了したと言えるでしょう。
この記事では相続税の税務調査について説明したいと思います。
相続税の税務調査の時期
相続税の税務調査は、申告書提出後1~2年が目安です。ただし、申告期限から5年以内に調査が行われる可能性があります。申告期限から2年経過すれば一安心ですが、5年を過ぎないと完全には安心できません。
相続税の時効は5年です。5年経過後は追加納税の義務はありませんが、悪質な場合は7年に延長されることがあります。脱税の場合、7年間は安心できません。
税務調査を行う旨の通知
相続税の税務調査は、税務署から「調査したいです」という連絡があります。
そして数週間後、調査官が現れて、相続税の調査が始まります。 調査官は相続人と話したり、金庫の中を見たりして調査を行っていきます。
この調査には相続税の申告を代理した税理士も立ち会うことになります。
相続税の税務調査の割合と実績
相続税の調査の割合は、相続税を支払った人のうち、約10%が税務調査を受け、そのうち85%が追徴課税されています。
追徴課税とは、申告した税金が少なかったりした場合に、追加で納める必要のある税金のことです。
令和4年事務年度(令和4年7月~令和5年6月)の相続税の実地調査件数は8,196件でした。
税務調査率は5.4%で、申告件数153,023件のうち8,196件が調査対象となりました。
申告漏れなどのミスがあった割合は87,6%で、ほぼ9割の案件で相続財産の漏れが指摘されています。
相続税の税務調査に入られやすい人
相続税の税務調査に入られやすい人の特徴は以下のとおりです。
・相続財産が大きい場合
・相続財産に預貯金や現金が多い場合
・名義預金や暦年贈与が多くある場合
・亡くなった人が家族経営の社長や自営業者(医者や弁護士も)
・海外資産がある人
など
✔相続財産が大きい場合
一般的に2億円以上の相続財産がある場合、調査の確率が高くなると言われます。財産が多いとミスや見逃しのリスクが増えるためです。
また税務署も追徴課税を取れる可能性が大きいところから、優先的に税務調査に入ります。そのため、財産額が大きいほど、税務調査の可能性が高まります。
✔相続財産に預貯金や現金が多い場合
不動産は評価額の算定が複雑なため、明確な申告漏れを指摘しにくい傾向があります。それに比べて預貯金は金額がはっきりしているため、申告漏れを見つけやすいのです。
また、預貯金の頻繁な出入りは、被相続人が生前に相続税対策のために財産を移転していたのではないかと疑われます。
✔名義預金や暦年贈与が多くある場合
被相続人の配偶者や子ども、孫などの資産に不審な点があると、税務調査の対象になります。特に名義預金と暦年贈与が多く調査されます。
名義預金とは、被相続人が配偶者や子ども、孫などの名義で開設した口座のことです。名義が違っても、通帳や印鑑を被相続人が管理していたり、名義人が自由にお金を出し入れできない場合、それは被相続人の財産とみなされ、相続税の申告が必要です。
収入が少ない専業主婦や学生の預貯金が多い場合、名義預金や生前贈与が疑われ、調査されることがあります。
✔亡くなった人が家族経営の社長や自営業者(医者や弁護士も)
亡くなった被相続人が、家族経営の社長、医師や弁護士など、高収入な職業の場合、税務署のチェックも厳しくなります。
✔ 海外資産がある人
被相続人・相続人のいずれかが日本国内に住んでいる場合、海外資産は相続税の対象になります。海外資産は相続税申告で漏れやすいであり、税務署は海外資産の申告漏れや過少申告がないか目を光らせています。そのため、海外資産を相続税申告すると税務調査の対象となりやすいといわれています。
国税総合管理システム(KSKシステム)
国税総合管理システム(KSKシステム)は、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、納税者の過去の申告状況や納税情報を一元的に管理するシステムです。
KSKシステムを活用して、亡くなった人の所得を把握し、それに比べて相続財産が少なければ、おかしいということで相続税の税務調査の対象となったりする訳です。
このシステムは証券会社や保険会社、銀行とも連携していて、情報を入手できるようになっています。
税務調査で質問されること
調査官は事前に調査の対象となる人の情報をある程度入手しています。
そして、調査当日において、故人の趣味や、通院歴、亡くなる前の状況など、様々な質問を行います。このような質問は世間話のように見えなくもないですが、このような質問で外堀を埋めていく作業を行います。つまり、後々言い逃れができないように質問しているのです。
例えば、調査官の「故人が亡くなるときはどんな状況でしたか?」という質問に対して、相続人が「亡くなる一週間前は昏睡状態でした」と答えたとします。調査官は事前に故人が亡くなる直前に故人の口座から多額のお金が引き出されていることを把握しているため、「この故人の口座から、亡くなる2日前に多額のお金が引き出されていますが、このお金を引き出したのはあなたですか?」というような質問をする訳です。
相続税を支払いたくない人は、亡くなる直前に故人のお金を引き出して、それを隠して相続税逃れをすることがよくあります。でもこんなことは調査官の事前調査で筒抜けなのです。