この記事では「贈与税」の話をしていきます。
この「贈与税」は「相続税」の補完税と言われます。別の言い方をすれば「穴埋め税」という立ち位置にいます。
「贈与税」このような立ち位置にいるため、「相続税」と「贈与税」の2つが「相続税法」に定められています。
このような「贈与税」についての解説を行います。
「贈与税」は「相続税」の補完税
たとえば、ある人が1億円の財産を所有しているとします。
そのまま亡くなると相続税が高額になるため、生前に財産を家族に贈与し、相続税を避けようという発想が生まれます。
このような相続税の回避策を防ぐため、贈与税が設けられており、生前贈与にも税金が課されるようにしているのです。
「相続税」と「贈与税」の共通点、相違点
両者の共通点はともに「財産を他人に移すこと」であります。もっと砕けた言い方をすると「プレゼント」ということになります。
両者の相違点は、生前のプレゼントなのか、亡くなったときのプレゼントなのかという点です。
「贈与税」の申告納付
贈与税は、1~12月までを税金の計算対象期間とし、税額を算出します。
つまり、贈与によりもらった財産の価額を1年間の総額で計算し、その額に基づいて贈与税額を算出するのです。
贈与税は申告納税方式であるため、自ら贈与税の額を計算し、納付しなければなりません。
贈与税は翌年の2月1日から3月15日の間に申告納付しなければなりません。
「申告納税方式」と「賦課課税方式」
「申告納税方式」とは、納税者自らが納めるべき税額を計算し、税務署に申告、納税する制度です。
「賦課課税方式」とは行政機関が納税者が納めるべき納税額を計算し、納税者に納税額を通知する制度です。
贈与税が課税されるのは、財産を「貰った人」
生前に贈与を受けた人は、その贈与を受けたことから税金を支払う能力(担税力)があると判断されるため、一定額を超えると贈与税が課税されます。財産をあげた人に課税はされません。
一方、アメリカにおいては財産をあげた人に贈与税が課税されます。これは財産を他人にあげる人はそれだけお金に余裕のある人であり、財産を貰う人はそれだけお金に余裕のない人であるという考えをしているためです。このようにすれば、財産を貰った人が贈与税をいきなり課税されるという不測の事態が生じないのです。
贈与税の基礎控除額
以下の点に沿って説明します。
・贈与税の基礎控除額は110万円
・贈与税の基礎控除額は「貰った人」の立場で考える
✔贈与税の基礎控除額は110万円
贈与税の基礎控除額は110万円となります。つまり、年間110万円までの贈与であるなら、贈与税は課税されません(贈与額110万円-基礎控除額110万円=課税価格0円)。
✔贈与税の基礎控除額は「貰った人」の立場で考える
例えば、ある人が父と母から両方110万円ずつ貰っているのであれば、その貰った金額の110万円を超える部分について、贈与税が課税されます。
反対に、あるひとりの人が何人かいる子供や孫に1人当たり110万円の範囲内で贈与するならば、贈与税はかかりません。
このように贈与税の110万円の基礎控除額は「貰った人」の立場で考えて、貰った額が一年間で110万円を超えれば、超えた部分につき贈与税が課税されるのです。
贈与税の税率
贈与税の税率は2種類あります。ひとつは「特例贈与財産」に該当する場合の税率(特例税率)と、「一般贈与財産」に該当する場合の税率(一般税率)です。
贈与税の税率については以下のポイントに沿って説明します。
・「特例贈与財産」、「一般贈与財産」とは
・「特例税率」と「一般税率」
・「特例税率」と「一般税率」の具体的な税率
・具体的な計算方法
✔「特例贈与財産」、「一般贈与財産」とは
「特例贈与財産」とは、その年の1月1日現在で18歳以上の人が、直系尊属(父母、祖父母、曽祖父母など)からもらった財産のことを言います。
一方、「一般贈与財産」とは「特例贈与財産」に該当しない全ての贈与財産のことを言います。
「一般贈与財産」の具体例は以下のようなものです。
・身内以外への贈与
・兄弟間の贈与
・夫婦間の贈与
・親や祖父母などから未成年者の子への贈与
✔「特例税率」と「一般税率」
年間110万円を超える贈与があった場合、その110万円を超える部分について贈与税が課されます。
そして「特例贈与財産」の贈与があった場合に適用される税率を「特例税率」といい、「一般贈与財産」の贈与があった場合に適用される税率を「一般税率」といいます。
上の例の場合、父の18歳以上の息子への贈与は「特例贈与財産」の贈与であるため、110万円を超える部分について、特例税率が適用されます。また、配偶者である妻への贈与は「一般贈与財産」の贈与であるため、110万円を超える部分について、一般税率が適用されます。
✔「特例税率」と「一般税率」の具体的な税率
特定税率と一般税率の速算表は以下のとおりです。
泉総合法律事務所HP参照(https://izumi-souzoku.jp/column/zeikin/tokureizouyozaisan)
上記の税率を見ると、基礎控除後の課税価格(贈与額-110万円)が200万円超4500万円以下であれば、特例税率の方が税率が低くて有利ということになります。
つまり、特例贈与財産の贈与が行われた場合は、一般贈与財産の贈与が行われた場合より贈与税額が少なくなるように設定されているのです。
✔具体的な計算方法
先ほど用いた図を使って説明します。
父から息子への500万円の贈与は「特定贈与財産」であるため、特例税率を使用します。計算方法は速算表に当てはめると以下のとおりです。
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税額の計算 390万円×15%-10万円=48,5万円
父から母への500万円の贈与は「一般贈与財産」であるため、一般税率を使用します。計算方法は速算表に当てはめると以下のとおりです。
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税額の計算 390万円×20%-25万円=53万円
計算によれば、父は息子と母の両方に500万円を贈与しており、この場合息子には48.5万円、母には53万円の贈与税が課税されます。これにより、特例贈与財産の贈与の方が税制上優遇されていることがわかります。
(参考)速算表の見方、意味合い
ここでは、先ほど登場した速算表の見方、意味合いを確認します。ここは贈与税の本題からはずれるので参考程度でご覧ください。
ここでは右側の一般税率を用いて説明します。
パッと見た感じ、金額が大きくなるにつれて税率が上がっているのが分かると思います。このように所得が増えるにつれて段階的に税率が上がる仕組みを超過累進税率と言います。相続税も同じく超過累進税率です。
贈与税の計算は速算表の一番左側の「贈与額-110万円」そして「税率」「控除額」の3つを使います。
計算式は 贈与税=(贈与額-110万円)×税率-控除額 となります。
ここで具体例を示します。ある20歳の人が叔父から500万円贈与されました。叔父からの贈与は一般贈与財産の贈与に当たるため、一般税率(速算表の右側)が適用されます。
贈与税の計算式をあてはめると、
(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円 となります。
それでは計算式で登場する「控除額」とはいったい何を意味するのかを以下説明します。
上の図は速算表をXYグラフで表したものです。縦軸が「税率」横軸が「贈与額」です。ピンクの部分が贈与税額を表します。すなわち贈与額が110万円以下なら、贈与税額はゼロとなります。また、例えば贈与額が310万円なら、(310万円-110万円)×税率10%=20万円となります。
先ほどの例である、「ある20歳の人が叔父から500万円贈与された」場合の贈与税額は3つのピンクの部分を足し合わせれば、贈与税額を求めることができます。
(310万円-110万円)×10%+(410万円-310万円)×15%+(500万円-410万円)×20%=53万円
しかし、これは計算が面倒です。そこで上のXYグラフの緑枠から、水色の面積の所を引いてやれば、すぐにピンク色の面積すなわち贈与税額が求まります。
緑枠(500万円-110万円)×20%-水色の面積の所25万円=53万円
すなわち贈与税額の計算式で登場する「控除額」とは水色の面積の所を表しているのです。
この水色の面積、すなわち控除額を求めてやれば簡便的に贈与税額が計算できるのです。
生前贈与を用いた相続税の節税
相続税の節税方法の王道と言えば、「生前贈与」と言えるかもしれません。
財産家が身内に毎年110万円までの生前贈与を行うことは、税務上有効な節税手段です。たとえば、3人の子どもにそれぞれ毎年110万円を贈与すれば、10年で合計3300万円を非課税で贈与でき、結果として相続税が課税される財産を減らし、相続税の節税につながります。
生前贈与加算
相続税、贈与税のルールとして、被相続人(亡くなった人)の死亡前3年間の贈与はなかったものとみなされ、相続財産に含められて課税されるというルールがあります。このルールを生前贈与加算と言います。
ちなみに現在では法改正がなされて、死亡前3年間ではなく、死亡前7年間の贈与はなかったものとみなされることになりました(3年ルールから7年ルールへの変更)。この改正と合わせて「相続時精算課税制度」も大幅な改正がなされ、生前贈与のルールが大きく変更されました。この点については後ほど解説します。
なお、この生前贈与が無効になるのは、あくまで「相続税法」上の話であり、民法上は贈与は有効です。
どういうことかというと、関係者の誰かがこの贈与を嫌っても、この贈与は民法上は認められる、つま贈与契約が有効に成立するということです。たとえば、兄がいて死亡前3年間の330万円欲しさに、これを主張しても意味がないということです。
あくまで相続税を計算するときだけ無効になって、相続財産に含められて課税されるということです。
(参考)生前贈与加算があった場合の相続税の計算(贈与税額控除)
もし、生前3年前の贈与が毎年110万円を超えるため贈与税の支払を行っていた場合、どうするのかについて説明します。
①生前3年前の贈与はなかったものとみなされ、相続財産に加算される
②相続税の額を計算
③生前3年前に支払っていた贈与税は支払う必要がなかったものなので、②で計算した相続税の額から減算する
このように贈与税の額を減額することを「贈与税額控除」と言います。
生前贈与加算の対象とならないとき
被相続人(亡くなった人)の死亡前3年以内の贈与は相続税法上なかったものとみなされ、相続財産に含めなければならないと説明しました。
しかし、一定の場合には被相続人の死亡前3年以内の贈与を相続財産に含めなくてよいときがあります。
どういうときかというと、生前においては贈与を受けていたが、相続時においては、被相続人からいかなる資産の相続を受けないときに、生前贈与加算は不要となります。
例えば
・法定相続人が生前は贈与を受けていたが、相続放棄した場合
・法定相続人でないものが生前贈与を受けており、相続時において遺贈がなかったとき
などです。
贈与の対象外
すべての無償譲渡が贈与税の対象となるわけではありません。
例えば、次ような場合は贈与税が課されません。
贈与税がかからない例
・教育費や生活費などの扶養に関わる支出
・結婚祝い金
・葬儀での香典
つまり社会の一般常識に則った範囲内での無償譲渡は、贈与税の対象外となります。
贈与の有効活用
贈与税は相続税の抜け穴を塞ぐための補完的な税金です。
それにもかかわらず、贈与には年間110万円までの基礎控除が設けられています。これを活用し生前贈与を行うことで、相続財産を減らし相続税の節税が可能になります。
現行法では、生前贈与に関する大幅な改正が行われ、3年ルールから7年ルールへの変更、さらに相続時精算課税制度の大きな変更により、節税対策も変化しています。
改正を行った国は、国民が生前贈与の制度を有効に利用することを望んでいると思われます。すなわち、生前贈与を促進し、若者に資金が流れ、それが消費に回ることで経済を活性化させたいという狙いがあると考えられます。
このような法改正を上手く利用し、贈与や相続で損をしないような立ち回りをすべきだと思います。