消費税⑭「原則課税(全額控除方式、個別対応方式、一括比例配分方式)」

消費税の計算方法は5つに分類されます。

①免税事業者、②簡易課税、③全額控除、④一括比例配分、⑤個別対応

の5つです。

①免税事業者はそもそも消費税を計算する義務がありません。②簡易課税は支払った消費税額を「預かった消費税額×みなし仕入れ率」で推計するというものです。

原則課税である③全額控除、④一括比例配分、⑤個別対応のそれぞれの消費税の計算方法は支払った消費税額の計算に違いがあります。

ここでは原則課税である③全額控除、④一括比例配分、⑤個別対応について解説します。

原則課税(全額控除、一括比例配分、個別対応)の適用要件

原則課税である③全額控除、④一括比例配分、⑤個別対応のそれぞれの適用要件は以下のとおりです。

③全額控除方式

2年前の‘‘課税売上高‘‘が1000万円未満で「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった者で、簡易課税制度を選択しなかった者
または、
2年前の課税売上高が1000万円超で5000万円以下の者で簡易課税制度を選択しなかった者
または、
2年前の課税売上高が5000万円超の者

今年の課税売上高が5億円以下かつ、‘‘課税売上割合‘‘が95%以上なら全額控除方式となる。

④、⑤一括比例配分方式、個別対応方式

2年前の課税売上高が1000万円未満で「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった者で、簡易課税制度を選択しなかった者
または、
2年前の課税売上高が1000万円超で5000万円以下の者で簡易課税制度を選択しなかった者
または、
2年前の課税売上高が5000万円超の者

今年の課税売上高が5億円超または今年の課税売上割合が95%未満なら、一括比例配分方式または個別対応方式のいずれかを有利選択(税金上有利となる方を選択)できる。

‘‘課税売上高‘‘とは

課税売上高とは下図の緑で囲われた売上のこと
・10%課税売上
・8%課税売上(8%の軽減税率)
・0%課税売上(輸出免税)

・課税売上高とは消費税額を控除した税抜きの売上のこと
・輸出免税はもともと消費税0%なので売上に消費税は含まれていない
・不課税売上、非課税売上は課税売上高に含めない

‘‘課税売上割合‘‘とは以下の図に示すとおりです

全額控除方式、一括比例配分方式、個別対応方式の共通点相違点

消費税の計算方法である全額控除方式、一括比例配分方式、個個別対応方式の共通点と相違点は以下のとおりです。

共通点

簡易課税制度との比較で共通点を見出すことができます。

・簡易課税制度の消費税の計算方法

預かった消費税額-(預かった消費税額×みなし仕入れ率)

・原則課税(全額控除、一括比例配分、個別対応)の消費税の計算方法

預かった消費税額支払った消費税額

このように、簡易課税では、支払った消費税額は計算に含めず、預かった消費税額のみを用いて消費税を計算します。

一方、原則課税では、預かった消費税額と支払った消費税額の両方を用いて消費税を計算します。

このように原則課税である全額控除、一括比例配分、個別対応は預かった消費税額と支払った消費税額の両方を用いて消費税を計算するという共通点があります。

相違点

全額控除方式、一括比例配分方式、個別対応方式の違いを簡単に説明します。

原則課税の消費税の計算式は、

預かった消費税額支払った消費税額

ですが、全額控除方式、一括比例配分方式、個別対応方式では支払った消費税額の計算方法に違いがあります。

全額控除方式は中小企業に認められる特例であり、最も簡単に消費税を計算出来て、最も有利に消費税額を計算できる方法です。

個別対応方式は最も正確に消費税額を計算しますが、計算が一番複雑で面倒です。

一括比例配分方式は個別対応の簡便法となります。

イメージは下の図のとおりです。

下に行けば行くほど計算が大変で、納税額も大きくなります。しかし、一括比例配分と個別対応の納税額の大きさは時と場合によって入れ替わります。

個別対応方式

まずは個別対応方式を解説します。長くなりますが、ひとつひとつ順を追って解説します。

ステップ1 取引の分類

消費税の取引は以下のように分類できました。

①10%課税取引、②8%課税取引、③輸出免税取引、④非課税取引、⑤不課税取引に分類できます。

ステップ2 ①~⑤の取引を当社の視点から見る

当社の視点から見ると、「取引」は「支出取引」と「収入取引」の2つに分類できます。

「支出取引」とは言葉のとおり、支出を伴う取引のことです。(イメージは「仕入取引」)
「収入取引」も言葉のとおり、収入を伴う取引のことです。(イメージは「売上取引」)

そして、更に「支出取引」と「収入取引」は5つに分類できます。

「支出取引」は当社の視点から①10%課税仕入、②8%課税仕入、③輸出免税仕入、④非課税仕入、⑤不課税仕入に分類できます。

例えば「土地を1000万円で購入した」ならば、消費税の支出がない④非課税仕入に該当します。

また、「収入取引」は当社の視点から、①10%課税売上、②8%課税売上、③輸出免税売上、④非課税売上、⑤不課税売上に分類できます。

例えば「テレビを売り上げた」ならば、10%課税取引にあたるので①10%課税売上に該当します。

そして、①10%課税売上、②8%課税売上、③輸出免税売上を「課税売上」として一括りにします。

ステップ3 支出取引を「課税仕入」と「非課税仕入」に分ける

当社から見れば「支出取引」である①10%課税仕入、②8%課税仕入、③輸出免税仕入、④非課税仕入、⑤不課税仕入を「課税仕入」と「非課税仕入」と呼ばれるものに分類します。

「課税仕入」とは、消費税がかかる商品やサービスの購入を指します。

「非課税仕入」とは、消費税がかからない商品やサービスの購入を指します(寄付金も含む)。

つまり、購入時に消費税が課されるかどうかで分類されるということです。

課税仕入の分類

図で青く囲んだ「課税仕入」(①10%課税仕入、②8%課税仕入)を再分類します。

A「課税売上に対応する課税仕入」、B「非課税売上に対応する課税仕入」、C「A、B両方の売上に対応する課税仕入」に分けます。

・A「課税売上に対応する課税仕入」

消費税を支払って購入したモノを消費税を課して売る場合の当該仕入のことを言います。

例えば、当社が税込770円(700円+税70円)の鍋を購入して、消費者に税込1100円(1000円+税100円)で販売するような一連の取引に係る仕入のことです。

この場合、当社は70円の消費税を負担していますが、消費者に100円の消費税を請求しています。そのため、当社は消費税の負担から解放され、70円の仕入税額控除が可能です。

・B「非課税売上に対応する課税仕入」

消費税を支払って購入したモノを消費税を課さずに売る場合の当該仕入のことです。

例えば、当社が税込5500円(5000円+500円)の医薬品を購入して、消費者に税抜7000円で販売するような一連の取引に係る仕入のことです。

この場合、当社は500円の消費税を負担しています。しかし、医薬品を消費者に売るときは非課税なので、消費者に消費税を請求できません。そのため、500円の消費税は当社が負担しなければならず、仕入税額控除はできません。

・C「A、B両方の売上に対応する課税仕入」

消費税を支払って購入したモノが課税売上にも、非課税売上にも貢献するような課税仕入のことです。

例えば、当社が電気代1100円(1000円+税込100円)を支払っている場合です。

この電気代は当社の課税売上にも非課税売上にも貢献しているのなら、課税売上に貢献している電気代については仕入税額控除を認めて、非課税売上に貢献している電気代については仕入税額控除を認めません。

C「A、B両方の売上に対応する課税仕入」の按分方法

課税売上にも非課税売上にも貢献する課税仕入は、課税売上割合をもちいて按分し、課税売上に貢献する課税仕入のみに仕入税額控除を認めます。

例えば先ほどの例、当社が電気代1100円(1000円+税込100円)を支払っている場合で、課税売上割合が70%であるなら、

支払った消費税額100円×70%=70円の仕入税額控除を認めます。

個別対応方式

このように課税仕入をA「課税売上に対応する課税仕入」、B「非課税売上に対応する課税仕入」、C「A、B両方の売上に対応する課税仕入」に分類し、Aについては仕入税額控除を認め、Bについては仕入税額控除を認めず、Cについては課税売上に対応する課税仕入のみ、仕入税額控除を認める計算方法を個別対応方式と言います。

まとめると次のようになります。

個別対応方式

A「課税売上に対応する課税仕入」

仕入税額控除できる

B「非課税売上に対応する課税仕入」

仕入税額控除できない

C「A、B両方の売上に対応する課税仕入」

Aの課税売上に対応する課税仕入は仕入税額控除できるが、
Bの非課税売上に対応する課税仕入は仕入税額控除できない

上の説明で使った金額で図解してみると、、、

このように、個別対応方式によった場合、70円+70円=140円の仕入税額控除ができます。

一括比例配分方式

一括比例配分方式の場合は、「課税仕入」と「非課税仕入」の分類のみで仕入税額控除の計算を行います。

当社の課税仕入は以下のとおりでした。

・当社は税込770円(700円+税70円)の鍋を購入
・当社は税込5500円(5000円+500円)の医薬品を購入
・当社は電気代1100円(1000円+税込100円)を支払う

よって、課税仕入に含まれる消費税額は

70円+500円+100円=670円

これに課税売上割合(ex70%)を掛けます。

670円×70%=469円

以上で一括比例配分方式を採用した場合の仕入税額控除の計算は終わりです。

図で示すと以下のとおりです。

このように一括比例配分方式の場合の仕入税額控除の金額の計算は

課税仕入に含まれる消費税額×課税売上割合

で求めます。もっと嚙み砕いて言えば「支払った消費税額をかき集めて、その額に課税売上割合を乗じて求める」ということになります。

このように個別対応方式よりも計算が容易であるため、個別対応方式の簡便法と呼ばれます。

個別対応方式と一括比例配分方式の具体例

ここでは具体的な金額を使って、個別対応方式を採用した場合の消費税額と一括比例配分方式を採用した場合の消費税額を求めます。

具体例

当社の当期の取引

・当社が税込770円(700円+税70円)の鍋を購入して、消費者に税込17,966円(16,333円+税1,633円)で販売
・当社が税込5500円(5000円+税500円)の医薬品を購入して、消費者に税抜7000円で販売
・当社が電気代税込1100円(1000円+税100円)を支払った


・当社の課税売上    鍋の販売      税込17,966円(16,333円+税1,633円)
・当社の非課税売上   医薬品の販売      5,000円
・課税売上割合=16,333円/16,333円+5,000円=70%

当社の課税仕入
・課税売上に対応する課税仕入    鍋の購入    税込770円(700円+税70円)
・非課税売上に対応する課税仕入   医薬品の購入  税込5500円(5000円+500円)
・両方に対応する課税仕入      電気代     税込1100円(1000円+税100円)

(個別対応方式)
預かった消費税額
鍋の販売で預かった消費税額  1,633円

控除対象仕入税額の金額
鍋の購入で支払った消費税額70円+電気代の支払で支払った消費税額100円×課税売上割合70%=140

消費税額の計算
預かった消費税額1,633円-控除対象仕入税額140円=1,493円

(一括比例配分方式)
預かった消費税額
鍋の販売で預かった消費税額  1,633円

控除対象仕入税額の金額
課税仕入に含まれる消費税額(70円+500円+100円)×課税売上割合70%=469円

消費税額の計算
預かった消費税額1,633円-控除対象仕入税額469円=1,164円

以上の計算から、個別対応方式を採用した場合の消費税額は1,493円、一括比例配分方式を採用した場合の消費税額は1,164円であり、一括比例配分方式を採用した方が有利なのでこちらを選択することになる。

全額控除方式

今年の課税売上高が5億円以下かつ、課税売上割合が95%以上なら、一括比例配分、個別対応方式ではなく、全額控除方式が採用されます。

全額控除方式では、課税仕入による消費税の支払があれば、その全額を仕入税額控除できます。

したがって、例えば

・当社が税込110,000円(100,000円+税10,000円)のパソコンを購入して販売
・当社が税込5500円(5000円+税500円)の医薬品を購入して販売
・当社が電気代税込1100円(1000円+税100円)を支払った
・当社の課税売上割合は97%である

という場合、

支払った消費税額 10,000円+500円+100円=10,600円・・・仕入税額控除できる金額

ということになります。

最後に

事業の規模が小さい間は、免税事業者であったり、課税事業者になっても簡易課税や全額控除方式が使えますが、事業規模が大きくなると個別対応方式や一括比例配分方式を採用しなければならなくなります。

つまり、事業規模が大きくなればなるほど、消費税の計算は複雑になり、節税もしにくくなっていきます。

このような場合にも、いかに効率よく消費税を計算し、節税していくかという視点を持って会社経営を行っていくことが重要だと考えます。

タイトルとURLをコピーしました