この記事では、青色申告を中心に見ていきたいと思います。
見ていく内容は、青色申告制度の趣旨やその内容・特典のほか、青色申告の承認が取り消された場合の話、青色申告に対する更正処分を行うときの話となります。
とても深い話もあって、分かりずらいところもあるかもしれませんが、出来るだけわかりやすく説明してみました。
青色申告制度
✔青色申告とは
そもそも、青色申告とは何なのでしょうか。
青色申告を定義するならば、「正確な会計帳簿に基づいて行われる、信頼性の高い申告」ということになります。
正確な会計帳簿とは、複式簿記に基づく会計帳簿ということになります。この会計帳簿に事業取引などをすべて記録し、これに基づいて信頼性の高い申告を行っていくのが青色申告ということになります。
✔青色申告制度の趣旨
正しい所得額を計算して、申告納税するには、業務における全ての取引をきちんと帳簿に記録しておく必要があります。
つまり、全ての取引がきちんと記録されている帳簿がなければ、正しい所得額を計算できず、正しく申告納税することができません。
よって、全ての取引をきちんと記録している帳簿が、正しい申告納税を行うために必要不可欠なものということになります。
そこで、納税者にこの「全ての取引をきちんと記録している帳簿」を積極的に作ってもらうために、このような帳簿を作る納税者に、手続面・実体(税額)面で特典を与えることにしました。
これが青色申告制度です。
納税者は、「全ての取引をきちんと記録している帳簿」を作成することにより、税金に関する様々な恩恵を受けることができます。よって納税者は、「全ての取引をきちんと記録している帳簿」を積極的に作成することになり、それにより正しい申告納税が実現するということです。
✔青色申告制度の概観
青色申告制度のポイントは、以下のとおりとなります。
① 所得税と法人税についてのみ存在する制度であり、所得税については、不動産所得・事業所得・山林所得を生じる業務を行う者に限って利用することができます(所得税法143条、法人税法121条)。
② 納税者は、青色申告制度を利用したい場合は、税務署長に申請を行う必要があり、承認された場合にその利用が可能となります(所得税法145条)。
③ 青色申告者は法定の帳簿の備付義務を負います(所得税法148条)。
④ 青色申告者は一定の書類を青色申告書に添付する義務を負います(所得税法149条)。
⑤ 青色承認は、一定の場合にはその承認が取消されます。そしてその取消には遡及効があります(所得税法150条)。ここに取消の遡及効とは「その取消の効果が過去にさかのぼって、その行為や処分が最初からなかったものとみなされ、その効力が失われること」を言います。
✔青色申告制度の特典
青色申告制度は、正しい申告納税の基礎となる正確な会計帳簿を作成することを後押しするために、このような会計帳簿を作成する者に様々な特典を与える制度です。
青色申告者に与えられる法律上の特典として、手続上の特典と実体法上の特典(税額面での特典)があります。
手続上の特典としては、青色申告者は推計課税を受けない、帳簿の調査なしに更正処分を受けない、青色申告者に対する更正処分においてはその理由が付記される、といったような特典が与えられます。この手続上の特典については、この後詳しく見ていきます。
実体法上の特典(税額面での特典)としては、青色専従者給与の特例(所得税法57条1項)、純損失の繰越控除・繰戻還付の適用(所得税法70条1項、140条)、貸倒引当金の必要経費算入(所得税法52条2項)、棚卸資産の評価方法や減価償却の特例の適用(所得税法施行令99条1項、130条、133条)、税額控除や特別償却(租税特別措置法10条~)などがあります。
実体法上の特典で、一番有名なのが「青色申告特別控除」(租税特別措置法25条の2)です。これは、青色申告者には1年あたり最大65万円の控除を受けることができるというものです。つまり、青色申告者は青色申告者というだけで、65万円の非課税枠をもらうことができるということです。
青色承認取消処分
✔青色承認取消の遡及効
青色申告は、納税者が申請し、税務署長が承認をした場合に行うことができます。
しかし、一旦承認を受けた後でも、所得税法150条1項1号~3号に該当する事実があった場合には、その青色申告の承認は取り消されます。
具体的には以下のような場合に青色承認が取消されます。
青色申告の承認が取消される場合(所得税法150条1項1号~3号)
・帳簿書類の備付け、記録または保存がきちんとなされていない場合(所得税法150条1項1号)
・帳簿書類について税務署から何らかの指示があったにもかかわらず、その指示に従っていなかった場合(所得税法150条1項2号)
・帳簿書類への記載・記録について、偽りその他不正の行為があった場合(所得税法150条1項3号)
そしてポイントとなるのが、この青色承認の取消には遡及効が認められていることです。
以下の具体例を使って説明します。
Aさんは平成20年分の所得税から青色申告の承認を受けて、青色申告を行っていました。
そして令和6年中の税務調査によって、令和2年分の所得税について青色承認の取消事由が発見されました(たとえば、令和2年分の所得税を計算する基礎となる帳簿書類の記載について偽りその他不正の行為があった)。
この場合、令和2年分まで遡ってAさんの青色申告の承認が取消され、令和2年分以降はすべて白色申告として扱われることになります(所得税法150条1項後段)。
問題があるのは、令和2年分の所得税のみであり、令和3年、4年、5年‥分の所得税について全く問題がなかったとしても、問答無用で令和2年分以降の申告はすべて青色申告ではなく、白色申告として取り扱われます。
青色承認が取消されることにより、「青色申告が白色申告として取り扱われる」ことが青色申告者にとってどれだけ残酷なことかを次に説明したいと思います。
✔青色承認の取消が青色申告者に与えるインパクト
上記の例で、Aさんが青色承認を取り消されることによってどのような影響を受けるのかを確認したいと思います。
たとえば、Aさんは青色承認を取り消されることによって、青色申告特別控除65万円を受けることができないことになります。つまり、青色承認が取消されることにより、令和2年から令和5年までの4年間は白色申告を行っていたとして扱われることになるため、青色申告特別控除65万円をこの4年間は受けるべきでなかったとして、65万円×4年=260万円の所得が増額し、これにつき増額更正処分を受けることになります。
また、たとえばAさんが令和2年に500万円の純損失をその後の3年間で繰越控除(所得税法70条1項)していた場合、この控除も違法となって500万円の所得が増額し、これにつき増額更正処分を受けることになります(純損失の繰越控除は損失が生じた年に青色申告をしていたことが要件となるため)。
他にも青色申告の特典は様々あり、この青色申告の特典を使って税額上の優遇措置を受けていたならば、その優遇措置がすべて否定されて、増額更正処分を受けることになってしまうのです。
✔青色承認取消の理由付記
上記のように、青色承認の取消は青色申告者にとてつもないインパクトを与えてしまいます。
他方、この青色承認の取消は、税務署長の裁量によって行われます。
青色申告者にとてつもないインパクトを与えてしまうことを、税務署長の裁量によって行えるのであるならば、税務署長の裁量によって行われる青色承認の取消は慎重になされてしかるべきです。
所得税法の条文上、青色承認の取消をする場合には「青色承認の取消理由が、所得税法150条1項1号~3号のいずれに該当するかを付記しなければならない」としています。この条文を素直に読めば税務署長が青色承認を取り消す場合に「青色承認を取り消しますね、理由は150条1項3号に該当するからです。」ということを青色申告者に伝えればいいということになります。
しかしこの点、最高裁はこのような理由付記では青色承認の取消処分は違法であると判断しています。つまり、税務署長が青色承認を取り消すために青色申告者に対して「青色承認を取り消しますね、理由は150条1項3号に該当するからです。」という通知をした場合、当該青色承認の取消処分は違法となって、青色申告者は青色申告者としての地位を失わないということです。
青色承認取消の理由付記については判決で説明されているため、その説明の概略を確認します。
大信株式会社事件判決(最判昭和49年4月25日)
青色承認の取消は、青色申告者に大きな不利益を与える処分である。よって、青色承認の取消を行う処分庁の判断の慎重・公平妥当を担保すること(恣意抑制)が必要である。他方、納税者においても青色承認の取消が行われた場合に、それに対して不服申立を行なえるようにしなければならない。
しかるに、青色承認の取消を行う場合において、単にその旨と取消理由が所得税法150条1項1号~3号のいずれに該当するのかということだけの通知だけでは不十分である。なぜなら、そのような取消の通知だけでは、処分庁の恣意抑制も上手く働かないし、納税者においては具体的にどういう理由で青色承認が取消されたのか分からず、次の手段(不服申立)を打てないからである。
よって青色承認取消の理由付記については、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは原則として不十分であり、「いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から分かるものでなければならない」。
青色承認の取消において、処分庁にこのような理由付記を要求することにより、処分庁は慎重に青色申告の取消を行うため、処分庁の恣意抑制にも資するし、また、納税者も具体的にどういう理由で青色申告が取消されたのかを確認できるため、納税者がその後適切に不服申立を行なえる手掛かりを得られることになる。
※判例の言葉をそのまま載せないで、私の説明も加わっているため、正確な言い回しではないかもしれません。
このように最高裁が判決したのは、青色承認の取消が納税者に与える大きなインパクトと、それが課税庁の裁量によって行われる点を重視して、それに見合った課税庁の慎重さと、処分を争う納税者の便宜を重視したものと考えられます。
✔税務調査の拒否と青色承認の取消
課税庁の職員が適法な税務調査を試みたにもかかわらず、青色申告の承認を受けている納税者が執拗にこれを拒否した場合も、青色承認を取り消すことができるという判例があります(三和建設事件判決〔最判平成17年3月10日〕)。
✔青色承認の取消の除斥期間
青色承認の取消には除斥期間の定めはありません。つまり、どこまでも遡って取消を行なえるということです。
他方で、青色申告の要件である帳簿の保存義務がある期間は原則として7年間です(所得税法施行規則63条、法人税法施行規則59条)。
この帳簿の保存期間を超えて青色申告の取消を行なえるとするのは、不自然のようにも思われますが、帳簿の保存義務の期間を超えて、遡って青色承認を取り消せるとした最高裁判決があります(青色承認再取消処分事件〔最判昭和51年2月20日〕)。
このように、青色承認の取消には除斥期間がないということは、たとえば、課税処分の除斥期間(原則法定申告期限から5年)を超えてしまってもはや更正処分も決定処分もできないような場合であっても、青色承認を取り消して、増額更正処分を行えることができてしまうことになります。
青色申告に対する更正処分
先ほどの話は、青色申告者は、青色承認が取消されて、青色申告者でなくなるときがあるという話でした。
ここでの話は、青色申告を行った後に、課税庁が行う更正処分の話です。
✔青色申告の手続上の特典
青色申告には実体面の特典(たとえば、青色申告特別控除)だけでなく、手続的な特典もあります。その手続的な特典が、青色申告に対して行われる更正処分において定められています。その手続的な特典とは以下の3つの特典です。
青色申告の手続上の特典(青色申告に対して行われる更正処分において定めらている)
① 青色申告者に対しては、推計課税による課税処分は受けない(所得税法156条括弧書、法人税法131条)
② 原則として、帳簿の調査なしに更正処分を受けることはない(所得税法155条1項、法人税法130条1項)
③ 青色申告に対する更正処分を行うときは、その理由を付記しなければならない(所得税法155条2項、法人税法130条2項)
①の特典については、青色申告者にとって利益があるということは想像しやすいです。②、③については一見しただけでは、青色申告者にとって利益があることを想像しにくいと思います。これからの話は、②、③がからむ話となります。
✔青色申告に対する更正処分と理由付記
青色申告に対して課税庁が更正処分を行うときは、その更正処分を行う理由を付記しなければなりません(所得税法155条2項、法人税法130条2項)。
この理由付記について言及されている判例があります。判例の概要は以下のとおりです。
青色更正「帳簿否認」事件判決(最判昭和38年5月31日)
① 青色申告に対する更正処分(以下「青色更正」と呼ぶ)は、増額更正処分のように、青色申告者に不利益を与えることもある処分である。よって、青色更正を行う処分庁の判断の慎重・公平妥当を担保すること(恣意抑制)が必要である。他方、納税者においても青色更正が行われた場合、これに対して不服申立を行なえるように納税者に必要な情報を提供しなければならない。したがって青色更正を行う理由の付記を欠けば、課税庁の恣意抑制にならないし、納税者に不服申立を行うために必要な情報提供も行っていないことになるため、処分自体が取消される。
②所得税法155条1項の規定は、青色申告書における所得の計算は法定の帳簿組織による正しい記載にもとづくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障したものであるから、同条2項が付記すべきものとしている理由には、特に帳簿の記載以上に信憑力のある資料を適示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とする。
②については何を言っているのか、一読しただけでは分からないと思います。この話の内容をできるだけ噛み砕いて分かり易く説明したいと思います。
②の話の内容
たとえば、青色申告者Aさんが、頑張って正しい会計帳簿を作成し、その会計帳簿に基づいて所得税の確定申告(青色申告)を行いました。
しかし、課税庁はAさんが作成した会計帳簿を全く見ずに、「追加で税金を支払って下さい」という更正処分をしました。
Aさんからして見れば「何のために頑張って正しい帳簿をつけてきたのか、課税庁は自分が作った帳簿を信頼してくれないなら作る意味ないよね」ということになり、正しい会計帳簿を作ることにつき、Aさんと課税庁の間で信頼関係が損なわれることになってしまいます。
申告納税制度の下で、課税庁と納税者の信頼関係が失われると、課税庁は納税者の作成した会計帳簿や申告書を信頼しないし、納税者も課税庁が信頼してくれないなら、正しい会計帳簿を作成する意味がなくなり、結果として申告納税制度が崩壊してしまいます。
したがって所得税法155条1項において「原則として、帳簿の調査なしに更正処分を受けることはない」という規定を設けて、課税庁の勝手なやり方(会計帳簿を調査せずに更正処分を行う)を放置せずに、制度でもって申告納税方式に対する信頼が揺るがないように担保しているのです。
そして、もし課税庁が納税者の作成した会計帳簿を否認するときは、その会計帳簿以上に信憑力のある資料を摘示して青色更正の具体的根拠を明らかにして下さいね、と判決は言っているのです。つまり、課税庁は納税者の作成した会計帳簿を調査した上で、もしその記載が間違っていたら、間違っていると言えるだけの信憑力のある証拠を提示してくださいね」ということです。
✔上記判例が課税実務に与えた影響
上記の判例(青色更正「帳簿否認」事件判決)は昭和38年に判決があり、課税実務に重大な影響を及ぼしました。
その理由は以下のとおりです。
青色更正「帳簿否認」事件判決(最判昭和38年5月31日)が課税実務に与えた影響
国税の除斥期間(課税庁が更正処分や決定処分などの課税処分を行える期間)は原則として法定申告期限から5年以内です。
国税の課税処分は、税務調査を行なった後に実施されるものであるため、課税処分は法定申告期限後かなりの時間がたってからなされることになります。したがって、この課税処分について納税者が不服申立を行い、その裁判が確定するときには、すでに除斥期間が経過してしまっているということも多くありました。
そして更正処分が取り消されるという裁判が確定した時に、すでに除斥期間が経過していれば、課税庁はその後、更正処分を行うことができないのです。
これが課税実務に大きな影響を与えました。以下理由を説明します。
たとえばAさんが所得税100万円で青色申告を行いました。この申告について税務調査を行い、その結果Aさんの所得税の納税額は300万円と判明したため、Aさんの所得税額を300万円とする更正処分を行いました。これに対してAさんは不服申立を行い、その後当該所得税の除斥期間(法定申告期限から5年)経過後に、当該更正処分は理由付記が不十分ということで取り消されました。そうすると、この場合、Aさんの所得税額は当初の100万円で確定します。たとえAさんの正当な所得税額が300万円であったとしても、100万円で税額が確定してしまうのです。
この判決は、課税庁にプレッシャーを与えるものであったと考えます。つまり、青色申告に対する更正処分について、その理由の付記が不十分である場合は、それが原因で当該更正処分が取り消され、その後更正処分ができない恐れがあり、これを防ぐために課税庁は更正処分の理由付記を慎重に行わなければならなくなったと考えられます。
✔帳簿書類の記載自体を否認することのない青色更正
青色申告者が頑張って正しい帳簿書類を作成し、それに基づいて申告書を作成した場合、その帳簿書類を課税庁が信頼することによって、申告納税制度が成立していると先ほど説明しました。
したがって、課税庁が青色更正する場合に、青色申告者が作成した帳簿書類の記載を否認するときは、その帳簿書類以上に信憑力のある資料を摘示して、これを否認しなければなりません。
つまり、課税庁は青色申告者が作成した帳簿書類を基本的に信頼しているが、信憑力のある資料に基づいてよく調査した結果、その記載に誤りがあった場合には、その証拠をきっちりと説明した上で青色更正を行います。このような対応であれば、課税庁が青色申告者が作成した帳簿書類を信頼しているという前提は崩れず、課税庁と納税者の双方の会計帳簿に対する信頼を基礎とする申告納税制度が維持されるのです。
これが先ほどまで見てきた話の内容です。
ここからの話は、「青色申告者が頑張って作成した正しい帳簿書類自体を、課税庁が否認することなくおこなう青色更正について、その帳簿書類以上に信憑力のある資料を摘示しなくても、理由付記制度の2つの趣旨目的(①処分庁の恣意抑制、②納税者の不服申立の便宜)を満たすなら、そのような青色更正は適法である」という判決が出たという話です。
判例の要旨を以下に示します。
小牧定織物事件判決(最判昭和60年4月23日)
ア 法が青色更正について理由付記義務を定めているのは、青色申告制度において、法定の帳簿組織による正当な記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に基づくものである。
イ アから考えると、帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に付記すべき理由は、その更正の根拠を、帳簿書類以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要する。
ウ アから考えると、帳簿書類の記載自体を否認することなく更正する場合には、①処分庁の恣意抑制、および、②不服申立の便宜、という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に更正の根拠を具体的に明示するものである限り、付記された理由が更正の根拠について帳簿書類以上に信憑力のある資料を摘示するものでなくても適法である。
エ 本件の更正理由は、課税庁の判断過程を省略することなしに記載したものである。課税庁はこの理由を記載することによって、自己の判断過程を逐一検証することができるから、課税庁の恣意抑制という理由付記制度の趣旨目的を損なうことはない。また、本件更正の理由は、「不服申立の便宜」という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものであるということができる。
この考え方を一般化すれば、会計帳簿の否認ではなく、法律の解釈や事実の評価の違いによって青色更正する場合には、その解釈や評価の理由までを具体的に明らかにする必要はないということになります。
青色更正以外の課税処分の理由付記義務
青色申告に対して、課税庁が青色更正するときは、更正を行う理由をきちんと示さなければならないということを、これまで見てきました。
それでは、青色申告以外の申告(たとえば、白色申告や消費税の申告、相続税の申告)に対して課税庁が課税処分を行う場合、その処分を行う理由について、きちんと示さなければならないのかどうかについてですが、この点については平成23年(2011年)12月に改正が行われました。
平成23年(2011年)12月改正前においては、青色申告以外の申告に対して課税処分を行うときは、その処分の理由を付記する義務はありませんでした。つまりたとえば、改正前において相続税の申告がなされて、これに対して課税庁が更正処分を行うとき、更正処分を行う理由を付記せずに更正処分が行えたのです。
これが平成23年12月の改正により、青色申告以外の申告に対して課税庁が課税処分を行うときは、その処分を行う理由を付記することが義務付けられました。つまりたとえば、改正後において相続税の申告がなされて、これに対して課税庁が更正処分を行うとき、課税庁は更正処分を行う理由を付記して更正処分を行わなければなりません。
この改正により、全ての課税処分につき、理由を付記しなければならなくなりました。それでは、どのような理由を付記すべきかですが、①処分庁の恣意抑制、②納税者の不服申立の便宜の2つの趣旨を満たす理由付記であることが必要であると考えられます。
最後に
青色申告制度は、青色申告者が作成する会計帳簿に対する納税者と課税庁の信頼を基礎として成り立っている制度です。
しかし、青色申告者も課税庁の職員も人間であるため、お互いの勝手にさせておくとその信頼関係が崩壊してしまうので、青色申告者と課税庁の信頼関係が崩れないように制度設計されているのです。
ところで、青色申告者が特に注意を要する点は、青色承認の取消であると考えます。もし、青色承認を取り消されてしまうと、ペナルティが非常に大きく、これは必ず避けたいところです。このペナルティを避ける一番の方法は、正確な会計帳簿を作成して、正しく申告納税することだと考えます。
青色承認の取消には除斥期間がないというのも大きなポイントであるように思われます。つまり、国税の除斥期間が経過しても、除斥期間経過後に青色承認の取消がなされると、無制限に過去にさかのぼって増額更正処分がなされるリスクが残るため、国税の除斥期間が経過すれば安心とはならないのです。
このようなことを知っていれば、正しい会計帳簿を作成し、それに基づいて申告納税することが一番安心でお得ということが分かると思います。