更正の請求は、2つに分類することができます。
ひとつは、「通常の更正の請求」です。これについては前回説明しました。
もうひとつが、「後発的理由による更正の請求」というものです。今回は、この2つめの更正の請求について説明していきたいと思います。
「通常の更正の請求」と「後発的理由による更正の請求」の要件の比較
「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)ができる要件は、以下のとおりでした。
通常の更正の請求ができる要件
① 納税者が納税申告書を提出していること
② 申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内であること
③ 以下のどちらかに事由により申告書に記載した税額が過大であること
(1) 税額等の計算が国税に関する法律の規定にしたがっていなかったこと
(2) 税額等の計算に誤りがあったこと
これに対して、「後発的理由による更正の請求」の要件については、国税通則法23条1項1号から3号別に要件が定められていますが、このうち1号の要件は以下のとおりです。
後発的理由による更正の請求ができる要件(国税通則法23条1項1号)
① 納税者が納税申告書を提出したこと、または、決定処分を受けたこと
② 申告等の税額等の計算の基礎となった事実について、判決等により、その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定したこと
③ ②の事由により申告書に記載した税額が過大であること
④ ②の確定した翌日から2か月以内になされること
「通常の更正の請求」の要件と「後発的理由による更正の請求」の要件の一番注目すべき違いは、更正の請求を行なえる期限が、法定申告期限から5年以内と定められているか否かです。
つまり、「通常の更正の請求」は、法定申告期限から5年以内でなければ、更正の請求はできませんが、「後発的理由による更正の請求」は、法定申告期限から5年を超えても更正の請求ができるということです。
「後発的理由による更正の請求」の趣旨
「通常の更正の請求」の要件として、「申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内であること」というものがあります。
つまり、法定申告期限から5年を超えてしまうと、それ以外の要件を満たしていても、「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)による更正の請求ができません。
しかし、法定申告期限から5年を超えてしまっていることを理由に更正の請求を認めないと、本来保護すべき帰責事由のない納税者を保護することができないという不当な結果を招いてしまう恐れがあります。
そこで、このような保護に値する納税者を保護するために、法定申告期限5年という期間をとっぱらってこのような納税者を保護しようとした規定が、国税通則法23条2項の規定、すなわち「後発的理由による更正の請求」の規定なのです。
つまり、「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)も「後発的理由による更正の請求」(同条2項)も、その趣旨は共通しており、「過大な税額を訂正して納税者を適正に保護するための制度」です。
「通常の更正の請求」と「後発的理由による更正の請求」の適用範囲の違いについて
もう一度言いますが、「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)も「後発的理由による更正の請求」(国税通則法23条2項)も趣旨は同じです。「過大な税額を訂正して納税者を適正に保護するための制度」です。
ただし、趣旨は同じであっても、その適用要件は「後発的理由による更正の請求」(国税通則法23条2項)の方が厳しくなります。
下の図を見て下さい。
国税の法定申告期限から5年以内であるなら、他の3要件も満たせば「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)ができます。
しかし、国税の法定申告期限から5年を超えてしまうと、5年以内であるなら更正の請求が認められていた全てにつき更正の請求ができるのではなく、国税通則法23条2項1号から3号にあげられた要件を満たす場合のみ、更正の請求ができることになります。
つまり、上の図で示すとおり、更正の請求が認められる灰色の範囲が、法定申告期限から5年を超えてしまうと、限定されてしまうのです。
別の言い方をすると、国税通則法23条2項の1号から3号が適用されるような事例について「国税の法定申告期限から5年以内」という要件さえ満たせば、これらの事例は国税通則法23条1項の要件も満たすことになります。
このように、「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)と「後発的理由による更正の請求」(国税通則法23条2項)には、このような関係性があることから、以下の2つのことを取り上げて説明します。
① 国税通則法23条2項による更正の請求の期限よりも、国税通則法23条1項による更正の請求の期限(法定申告期限から5年以内)の方が後にくる場合は、納税申告書を提出した者は2項の更正の請求はできない
② 法定申告期限から5年以内に「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)ができたにもかかわらず、しなかった場合は「後発的理由による更正の請求」(国税通則法23条2項)をすることができない
✔① 国税通則法23条2項による更正の請求の期限よりも、国税通則法23条1項による更正の請求の期限(法定申告期限から5年以内)の方が後にくる場合は、納税申告書を提出した者は2項の更正の請求はできない
何を言っているのか、分からないと思うので、例題をあげて説明します。
たとえば、Aさんは2013年中に土地の賃貸借契約を締結しました。
そして、2017年7月10日に当該契約が変更されたことにより、2013年分の所得税が過大となったため、2017年10月1日に更正の請求を行いました。
この契約が国税通則法23条2項3号にあたるとすると、更正の請求ができる期限は、当該契約の変更時である2017年7月10日から2月後の2017年9月10日になるので、2017年10月1日の更正の請求は期間経過後の請求となり、国税通則法23条2項3号による更正の請求は認められないことになります。
他方、2013年の所得税の法定申告期限は、2014年3月15日であり、この日から5年を経過する日の2019年3月15日が国税通則法23条1項による更正の請求の期限となり、Aさんは2017年10月1日に更正の請求を行っているので、期限内の更正の請求であり、Aさんは国税通則法23条1項による更正の請求は認められることになります。
このような場合、判例はどのように取扱っているかというと、「国税通則法23条2項による更正の請求の期限よりも、国税通則法23条1項による更正の請求の期限(法定申告期限から5年以内)の方が後にくる場合は、納税申告書を提出した者は2項の更正の請求はできない」としています。
つまり、本事例は「国税通則法23条2項による更正の請求の期限(2017年9月10日)よりも、国税通則法23条1項による更正の請求の期限(2019年3月15日)の方が後にくる場合」に該当するので、国税通則法23条2項の適用はなく、23条1項の適用により、Aさんの更正の請求は認められるということになります。
✔法定申告期限から5年以内に「通常の更正の請求」(国税通則法23条1項)ができたにもかかわらず、しなかった場合は「後発的理由による更正の請求」(国税通則法23条2項)をすることができない
「国税の法定申告期限内に、国税通則法23条1項の更正の請求をしなかったことにつき、やむを得ない理由があるとは言えない」場合には、国税通則法23条2項の更正の請求はできないと最高裁で判示しています(通謀虚偽資産分割「更正の請求」事件判決・最判H15・4・25)。
つまり、国税の法定申告期限内に23条1項の更正の請求を行うことができたにもかかわらず、それを行わなかった場合には、そのような納税者は23条2項によって保護するに値しないと判断されたと思われます。
最後に
通常の更正の請求と後発的理由による更正の請求は、それぞれ特定の要件が存在し、適用範囲や期限に違いがあります。これらの違いをしっかりと把握して、状況に応じた適切な手続きを行うことが大切です。
また、更正の請求は納税者の保護を目的とした制度ですが、要件に合致しない場合はその適用が認められないため、適用できないという不測の事態を避けることが必要不可欠です。