給与所得の計算方法については、所得税③の所で一度見ました。
ここでは、もう少し詳しく、給与所得の計算方法などについて見ていきたいと思います。
まずは位置付けの確認です。下図のように、給与所得は10種類の所得のうちの1つです。
給与所得には、日本で働く多くのサラリーマンが得ている所得という特徴があります。
給与所得も個人の所得なので、本来は確定申告が必要です。しかし、サラリーマン全員が確定申告をするとサラリーマンにとっても手間であるし、税務署の手間も膨大になってしまいます。そこで「源泉徴収、年末調整、給与所得控除」という仕組みを整えました。
この仕組みにより、サラリーマンは原則として確定申告が不要で、税務署も簡単で確実に税金を徴収できるようになるのです。
ここでは「源泉徴収、年末調整、給与所得控除」を中心に、給与所得にまつわる話をしていきたいと思います。
源泉徴収制度
サラリーマンは原則として確定申告不要という仕組みを作るためには、この「源泉徴収制度」は欠かせない要素となります。
源泉徴収については以前にすでに説明済みですが、ここでもう一度確認します。
源泉徴収とは、サラリーマンの代わりに勤め先が税を計算して納税してくれる制度のことを言います。
それでは、会社は具体的に何をしているのでしょうか。以下説明します。
従業員は働いて給料を稼ぎます。そうすると会社は従業員に給料を支払います。例えば、従業員の給料が今月20万円だった場合、全額の20万円を支払うのではなく、従業員が負担すべき所得税を差し引いた残額を支給するのです。この支給された残額がいわゆる「手取り」です。
このとき、会社は従業員が負担すべき所得税を預かっていることになります。そこで、会社は従業員の代わりにこの所得税を国に納付するのです。
これが源泉徴収の仕組みです。
源泉徴収の仕組みは徴収する側の国にとってメリットが大きいのです。どのようなメリットかというと、「確実に所得税を徴収できるというメリット」です。
このメリットについて、以下の図を使って説明します。
源泉徴収制度がない場合、会社は従業員に給料の全額を支給します。そして、従業員は自ら所得税を計算し、納税します。しかし、これでは確定申告を行って納税しない国民が多発し、国は所得税の徴収漏れが生じてしまうのです。
そこで、源泉徴収制度を採用することにより、会社が従業員の代わりに従業員の所得税を納税することになるため、国にとって所得税の徴収漏れが格段に減少するのです。
このように源泉徴収制度は国にとって、とても都合の良い制度なのです。
年末調整
源泉徴収制度を採用している場合、会社は従業員の給料から所得税を天引きして、残額を従業員に支給し、預かった所得税は従業員の代わりに納税します。
しかし、所得税の計算は暦年(1月~12月まで)課税であり、従業員の所得税を計算できるのは、12月に従業員に給料の支払が完了した時点です。つまり、この時点で、1月~12月までの給料の総支払額が判明するので、このときはじめて従業員の所得税が計算できるのです。
このように、従業員の所得税の年税額は12月にならないと計算できないのに、毎月の給料から所得税が天引きされているのはどういうことかというと、それは所得税の概算額を天引きしているということなのです。
別の言い方をすれば、毎月の給料から天引きされる所得税は所得税の前払いということになります。
そうして12月になると、給与所得者の一年間に稼いだ給与の総額が判明するので、ここで初めて所得税の年税額が計算できます。 そして年末に所得税の年税額を求めて、毎月支払ってきた所得税の前払額と比較して、払いすぎていたら、税金が戻ってくるし、払い足りなければ、税金を追加で納税しなければならないのです。 この所得税の前払額を年税額に調整することを年末調整というのです。
金額を使って説明します。
毎月の給料から天引きされる所得税の額が5,000円であり、年間で60,000円の所得税を前払いしていたとします。
そしてこの場合、所得税の年税額が50,000円であるならば、所得税を10,000円多く支払っているので、10,000円が戻ってきます。
反対に、所得税の年税額が70,000円であるならば、所得税の支払が10,000円足りないので、追加で所得税を10,000円支払わなければなりません。
給与所得控除
✔給与所得控除制度の必要性
サラリーマンは原則確定申告不要ですが、これを実現するために重要な要素の一つが「給与所得控除」です。
給与所得控除とは、サラリーマンが仕事で使う経費を概算で計算する仕組みです。サラリーマンの経費として、例えばスーツやネクタイ、靴、鞄、書籍などの費用があります。
もしこれらの経費を実際の金額で計算しようとすると、サラリーマンも会社も多くの手間がかかります。領収書を保管したり、経費が本当に仕事に関連しているか確認したりする必要があるからです。
そこで、サラリーマンの経費は給与収入に基づいて自動的に計算される「給与所得控除」という仕組みが作られました。この控除額は、給与収入に応じて以下の式により自動的に決まります。
国税庁HPより抜粋
会社は従業員の給与収入の情報を持っているので、これにより自動的に従業員の給与所得控除の額を計算できるのです。
この制度に加えて源泉徴収、年末調整の仕組みが機能することにより、サラリーマンの確定申告不要制度が成立するのです。
ちなみに年収500万円の人の給与所得控除の額は「500万円×20%+44万円=144万円」となります。政府税制調査会の試算によると、サラリーマンの必要経費は年収の約3%ということであり、年収500万円なら必要経費は「500万円×3%=15万円」ということになり、給与所得控除の額が高く設定されていることが分かります。
✔給与所得控除の意義
給与所得控除の意義は以下の4つで説明されます。
① 必要経費の概算控除
② 担税力の調整
③ 捕捉率格差の調整
④ 金利調整
① 必要経費の概算控除
これは、先ほど説明したように、給与所得を得るのに必要な経費を、それが実際にいくらかかったかを計算するのではなく、概算額を法律で決めて控除するというものです。
②担税力の調整
これは、勤労性所得である給与所得はいつ働けなくなるか分からないなど、資産性所得のような不労所得に比べて、担税力が低いので、その点を考慮して多めに控除しようというものです。
③ 捕捉率格差の調整
給与所得の場合は、その計算を会社が行うため、その所得の捕捉率はほぼ100%であるのに対し、事業所得の場合は事業主が自ら確定申告して納税するため、その所得の捕捉率を100%にすることはできません。このように給与所得と事業所得を比べた場合に、捕捉率に差があり、それが不公平となるため、そのことが考慮されているということです。
④ 金利調整
給与所得の場合は、毎月の給与の支払から所得税を源泉徴収されています。これは、所得税の前払です。
もし、給与所得者が確定申告をして納税するなら、この前払した所得税を運用に回していくらかの利回りを得ることができたはずです。
しかし、所得税の前払をさせると運用できないため、その分を給与所得控除で調整しようというのです。
✔給与所得控除の位置付け
所得控除と言えば、「人的控除」と「物的控除」がありました。
「人的控除」(8種類)
基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除、寡婦控除、ひとり親控除
「物的控除」(7種類)
社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、寄付金控除、雑損控除
このような15種類の所得控除と給与所得控除はその位置付けが違います。
下の図を見て下さい。
給与所得控除はサラリーマンの必要経費の概算額として、給与収入から差し引かれるものです。すなわち、一番左の段階で差し引かれます。
そして、所得の計算が右に移っていって、「所得控除」の所で15種類の所得控除が減額されるのです。
年末調整で提出する書類
年末調整で従業員が会社に提出する書類は以下の3つです。
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・給与所得者の保険料控除申告書
・給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
このような書類を3つ渡せれて提出させられます。
この3つの書類には、「給与収入」と15種類の所得のうち「医療費控除、寄付金控除、雑損控除」を除く残りの所得控除「基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除、寡婦控除、ひとり親控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除」をなどを記載します。
下の図で再度その位置付けを確認してください。
この3つの書類を提出することにより、サラリーマンは原則確定申告不要となります。
確定申告不要の例外
従業員が会社に上に紹介した年末調整を行うための書類を提出すれば、基本的に確定申告を行う必要はありません。
しかし、場合によっては、サラリーマンであっても確定申告を行う必要がある場合がいくつかあります。それは以下のような場合です。
・年末調整の対象とならない所得控除等の適用を受けられる場合
・年末調整を受けた会社の給与以外に所得があるサラリーマンの場合
・年間の給与収入が2000万円を超える場合
・年末調整を受けた会社の給与以外の所得の合計が20万円以下であっても、年末調整の対象とならない所得控除等の適用を受けるため確定申告をする場合
✔年末調整の対象とならない所得控除等の適用を受けられる場合
15種類の所得控除のうち、「医療費控除、寄付金控除、雑損控除」は年末調整の対象外です。したがって、これらの所得控除を受けたければ、サラリーマンでも確定申告をしなければなりません。
✔年末調整を受けた会社の給与以外に所得があるサラリーマンの場合
これはさらに以下の2つのパターンに分類されます。
① 納税者が複数の会社から給与所得を得ている場合
この場合、年末調整はひとつの会社でしか行われていません。他の会社からの給与はふくまれていないため、正しい所得税を計算するためには確定申告が必要です。
ただし、2つ目の給与所得と他の所得を合計して、20万円以下の場合には確定申告は不要です。
② 納税者が給与所得以外の所得を得ている場合
納税者が給与所得以外の所得を得ている場合で、その所得の合計額が20万円を超えるときは確定申告が必要です。しかし、その所得の合計額が20万円以下の場合には確定申告は不要です。
✔年間の給与収入が2000万円を超える場合
年間の給与収入が2000万円を超える高額な給与所得者については、年末調整の適用はなく、したがって常に確定申告が必要となります。
✔年末調整を受けた会社の給与以外の所得の合計が20万円以下であっても、年末調整の対象とならない所得控除等の適用を受けるため確定申告をする場合
たとえばひとつの会社からの給与所得以外に、18万円の所得がありました。しかし、その所得の合計は20万円以下なので確定申告は原則不要です。
しかし、その者が「医療費控除または寄付金控除、または雑損控除」を受けるため確定申告をする場合、当該20万円以下の所得(18万円の所得)も併せて確定申告をしなければなりません。
サラリーマンの確定申告不要の仕組みと金融所得課税
日本の給与所得者の多くは、確定申告書を提出し、納税するという行動になれていません。
その最大の理由は「源泉徴収、年末調整、給与所得控除」の制度によって、サラリーマンの確定申告不要の仕組みが機能しているからです。
そして一般の給与所得者の多くは、給与所得といくらかの資産運用(貯金や株式投資)から得られる所得を有していると考えられます。
給与所得者の多くが確定申告に不慣れであるため、このような人たちが貯金や株式投資という取引をスムーズに行うためには、これらから得られる所得についても、確定申告不要とすることが望ましいと考えられます。
そこで、貯金による利子については源泉分離課税により申告不要とし、また株式投資についても、その配当所得や譲渡所得について申告不要制度が設けられているのです。
特定支出控除制度
・給与所得控除または実額控除の選択+確定申告 年末調整廃止論