相続税を節税する手法としては2つありました。
ひとつは「現金より、土地、建物で相続すると相続税の節税になる」というものであり、もうひとつは「相続の対象となる土地や建物を他人に貸すとなおさら節税になる」というものでした。
建物を利用した相続税の節税方法については、以前の記事で詳しく見てきました。
今回は、土地を利用した相続税の節税方法に焦点を当てます。
この記事では、宅地(建物を建てるための土地)の相続税評価額について解説します。従って、農地などは含まれません。
まず、土地が相続財産に含まれる場合の相続税評価額の算出方法を説明し、その後で土地を利用した節税方法について考察します。
土地の価格は5種類
土地には以下のように5種類の価格が設定されています。
①実勢価格・・・・・・・時価(市場価格)のことです
②固定資産税評価額・・・土地の固定資産税を計算するための基礎となる金額
③基準地価・・・・・・・都道府県が調べた土地の価格
④公示地価・・・・・・・国が調べた土地の価格
⑤路線価・・・・・・・・国税庁が調べた土地の価格
②~⑤は国や地方公共団体が公表している価格です
このうち、「土地の相続税評価額」を算定するために使う金額が、②固定資産税評価額と⑤路線価です。
自用地と貸宅地
土地(宅地)は自用地と貸宅地に分けます。
・自用地
自分で利用している土地のこと、すなわちマイホームが立っている土地のことです。
・貸宅地
自分の土地を他人に貸して、その上に建物を建ててもらうための土地のことです。例えば、誰かに土地を貸して、その人がその土地に家やビルを建てる場合、その土地は貸宅地となります。
自用地と貸宅地の相続税評価額の算定式
自用地と貸宅地の相続税評価額の算定式はそれぞれ「路線価方式」と「倍率方式」があります。
・自用地の相続税評価額の算定式
路線価方式
倍率方式
・貸宅地の相続税評価額の算定式
路線価方式
倍率方式
それぞれ説明します。
自用地の相続税評価額の算定式
自用地の相続税評価額は以下のいずれかの算式により求めます。
・路線価方式
自用地の相続税評価額=路線価×地積(㎡)
・倍率方式
自用地の相続税評価額=固定資産税評価額×倍率
※「地積」とは土地の面積のこと
※倍率方式における「倍率」はほとんど1.1倍になります
✔路線価方式
路線価方式における「路線価」とは、道路に面する宅地の1㎡当たりの価格のことです。この「路線価」に土地の面積を掛け合わせることで、自用地の相続税評価額を求めることができます。
例えば、上のような路線価があったとします。「30B」の「30」の意味は1㎡あたり、30,000円という意味です。つまり、この「30」は千円単位です。
そして、マイホームが立っている自用地の面積は100㎡です。よって路線価方式によりこの自用地の相続税評価額を求めると、
路線価30,000円×地積100㎡=3,000,000円となります。
ちなみに「30B」の「B」は後ほど説明します。
✔倍率方式
「路線価」は不動産鑑定士が評価を行いその価格を決定します。この路線価は不動産鑑定士が算定しているため、その価格が正確であり、土地の相続税評価額を正確に求めることができます。ただし、日本の全ての道路について不動産鑑定士が価格を設定することは不可能です。そのため、田舎などでは路線価に代わって固定資産税評価額が使用されます。
例えば上のように自用地が面している道路に路線価がない場合、代わりに固定資産税評価額を使います。この場合の自用地の相続税評価額は
固定資産税評価額2,700,000円×倍率1、1=2,970,000円となります。
貸宅地と借地権
これまでは自用地について説明してきました。ここからは貸宅地の説明に移ります。
貸宅地とは、自分の土地を他人に貸して、その上に建物を建ててもらうための土地のことです。例えば、誰かに土地を貸して、その人がその土地に家やビルを建てる場合、その土地は貸宅地となります。
この場合土地の借主は土地の利用権を取得します。この土地の利用権を「借地権」と言います。
上の図を使ってもう一度説明します。AさんはBさんに土地を貸しました。Bさんはその土地の上にマイホームを建てました。この場合、Aさんにとって当該土地は「貸付地」となります。他方Bさんは土地の借主となり、当該土地についての利用権である借地権を取得します。この借地権に基づいて土地の上にマイホームを建てることができるのです。
借地権割合
借地権割合とは、土地を借りることによって借地権者が得られるメリットの割合をいいます。
例えば、都会の土地であれば、その土地を借りて建物を建てて商売を始めれば沢山の収益が見込めるため、借地権者が得られるメリットは大きくなり、借地権割合も大きくなります。
反対に田舎の土地であれば、その土地を借りて建物を建てて商売などを始めても多くの収益は見込めません。よって借地権者が得られるメリットは都会に比べて小さくなるため、借地権割合も小さくなります。
なお、この借地権割合は以下のA~Gの7段階設定されています。
借地権割合はAが一番高くて90%、Gが一番低くて30%となります。イメージとしては都会の方が土地の利用価値が高いので借地権割合が高く、田舎は土地の利用価値が低いので借地権割合も低くなります。
先程、路線価のところで出てきた「30B」の「B」とは、借地権割合が「B」すなわち80%であることを示します。
貸宅地の相続税評価額の算定式
貸宅地の相続税評価額は以下のいずれかの算式により求めます。
・路線価方式
貸宅地の相続税評価額=(路線価×地積(㎡) )×(1-借地権割合)
・倍率方式
貸宅地の相続税評価額=(固定資産税評価額×倍率)×(1-借地権割合)
✔路線価方式
算式は「貸宅地の相続税評価額=(路線価×地積(㎡) )×(1-借地権割合)」となりますが、
路線価×地積(㎡)は自用地の相続税評価額となるので、
貸宅地の相続税評価額=自用地の相続税評価額×(1-借地権割合)
となります。
それでは上の図の場合の貸付地の相続税評価額はいくらになるでしょうか。算式をあてはめると
(42,720,000円×100㎡)×(1-0,9)=4億2720万円となります。
この路線価は、日本一路線価が高いとされている銀座の2023年1月1日現在の路線価です。
✔倍率方式
倍率方式も同じく、借地権割合を用いて、貸付地の相続税評価額を求めます。
土地を利用した相続税の節税効果が高いのは、大都会の土地を購入して、他人に貸し付けること
例えば、現金5億円を持っていました。このままでは相続税が多額に課せられるので相続税対策として土地を利用することにしました。
①土地5億円を購入して自用地にした場合
②田舎の土地5億円を購入して当該土地を他人に貸しつけた場合(借地権割合30%とする)
③大都会の土地5億円を購入して当該土地を他人に貸し付けた場合(借地権割合を90%とする)
の節税効果を比較します。
①土地5億円を購入して自用地にした場合
この場合の土地の相続税評価額は約80%程の4億円となります。したがってこの場合は約1億円の相続財産を減らすことができます。
②田舎の土地5億円を購入して当該土地を他人に貸しつけた場合(借地権割合30%とする)
自用地の相続税評価額4億円×(1-借地権割合30%)=2億8000万円
となります。したがってこの場合は約2億2200万円の相続財産を減らすことができます。
③大都会の土地5億円を購入して当該土地を他人に貸し付けた場合(借地権割合を90%とする)
自用地の相続税評価額4億円×(1-借地権割合90%)=4000万円
となります。したがってこの場合は約4億6000万円の相続財産を減らすことができます。
このように保有する現金で大都会の土地を購入して、それを他人に貸し付けることができれば強烈な相続税対策になります。