相続財産となる建物を相続する場合、建物の相続税評価額は時価ではなく、固定資産税評価額に基づいて算定するということは、相続税⑫において指摘しました。
では、この固定資産税評価額とはいったい何なのか、また、建物の相続税評価額について、もう少し突っ込んで説明したいと思います。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、言葉のとおり、地方税である固定資産税を求めるための基礎となる金額です。
固定資産税を求める算式は以下のとおりです。
固定資産税=固定資産税評価額×1,4%
この固定資産税評価額は同じ材質や工法の建物なら、立地に寄らず金額は同じになります。すなわち、都会に建設されようが、田舎に建設されようが、同じ建物であるなら固定資産税評価額は同額になります。
上記のように全く同じ建物を中堅都市、大都会、田舎に建設した場合、それぞれの時価は異なってきますが、固定資産税評価額は同じになります。(ちなみに、この建物の時価と固定資産税評価額の差額に着目して相続税を節税しようとしたのがタワーマンション節税です。タワーマンション節税は相続税⑬で説明します。また2024年の法改正により、この固定資産税評価額の算定計算も変更されました。これについても相続税⑬において説明します。)
この固定資産税評価額は相続される建物の相続税評価額の算定の基礎となります。
建物の相続税評価額
建物が相続されるとき、建物の相続税評価額は固定資産税評価額をもとに計算します。
相続建物の評価額は以下の3パターンに分けて説明します。
・自用家屋(住んでいる家)の相続税評価額
・一軒家を貸している場合の相続税評価額
・アパート経営しているときの相続税評価額
✔自用家屋(住んでいる家)の相続税評価額
自用家屋を相続する場合、その相続税評価額は以下のとおりです。
自用家屋の相続税評価額=固定資産税評価額×1
すなわち、自宅を相続する場合は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
✔一軒家を貸している場合の相続税評価額
他人に貸している一軒家を相続する場合、その相続税評価額は次のようになります。
貸家の相続税評価額 = 固定資産評価額 × (1 – 30%)
家を貸すと、法律により借家人には借家権が与えられます。借家権とは、借家人がその家を利用する権利です。
相続税法上、この借家権には借家権割合が定められており、全国一律30%です。。つまり、借家人には貸家の30%の利用権があり、貸主の所有権は30%制限されるということです。
したがって、家を貸家にした場合、その貸家の所有権は30%制限され、相続税評価額も30%減少します。
例えば、上の図のように、市場価値1億円の家を貸しました。そして当該家の固定資産評価額は7000万円でした。この場合の当該貸家の相続税評価額は「7000万円×(1-30%)=4900万円」となります。
もし、1億円の現金があるなら、それで時価1億円の家を購入して貸家にすれば、家の相続税評価額を4900万円にできることになります。現金1億円を相続すれば、そのまま相続税が課されますが、このような節税スキームを使えば、相続財産の価額を4900万円まで減少させることができるのです。
✔アパート経営しているときの相続税評価額
アパート経営をしている被相続人から当該アパートを相続する場合、その相続税評価額は以下のとおりです。
アパートの相続税評価額=固定資産評価額×(1-30%×入居率)
アパート経営をしている場合、その入居者には、そのアパートの部屋を利用する権利である借家権が認められます。
相続税法上、借家権割合は一律30%であるので、アパート経営者は当該アパートの一室の所有権を30%制限されることになります。
しかし、アパートには「入居率」というものがあります。例えば入居率が100%であるなら、アパート全体の30%の所有権が制限されることになります。反対に入居率が0%であるなら、アパートの所有権は一切制限されていないことになります。
以下の図は、アパートの入居率が50%の場合の相続税評価額でです。
例えば市場価格1億円のアパートを賃貸に出しました。アパートの固定資産税評価額は7000万円です。そして、入居者の割合は50%でした。この場合の当該アパートの相続税評価額は「7000万円×(1-30%×入居率50%)=5950万円(青色で囲った部分)となります。緑の部分は入居者により所有権が制限されている部分なので、この部分につきアパートの相続税評価額から減額するのです。
建物を利用した相続税の節税
このように建物の相続税評価額は、建物を他人に貸している場合は減額します。
つまり、建物を使った相続税の節税は、①手持ちの現金で建物を購入することで、相続税を節税でき、更に②その建物を他人に貸すことで更に相続税を節税できるのです。
このような節税の知識を持つことで、相続税の支払い時に無駄がないように対処できます。