例えば父親が亡くなった場合、その父親の財産をその妻や子供が相続するという場面に遭遇します。このような場面は例外を除いて誰もが遭遇する場面です。
この「相続」について、どのようにすべきかは民法上に規定されています。
そして、「相続」と言えば「相続税」という話が絡んできます。しかし「相続税」は、多額の相続財産がある場合に課される税金です。日本では、亡くなった人の約10人に1人の割合で相続税が課税されています。つまり、亡くなった人の約10人に9人までは相続税は課税されません。
「相続税」について話す前に、民法で「相続」がどのように規定されているかを確認することが重要です。これらのルールは相続税を計算する際にも重要な役割を果たします。
そこでこの記事では民法上に規定されている「相続」についての話を中心に解説します。
民法896条
民法第896条の規定です。
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。以下省略
※ここに「被相続人」とは財産を残して亡くなった人をいい、「相続人」とは被相続人の財産を相続する権利のある人を言います。
条文において「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」としているので、原則として被相続人のプラス財産のみならず、マイナス財産、つまり負の遺産も相続しなければなりません。
相続財産はいったん「共有」財産になる
民法第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
※民法898条は、相続人が数人あるときに相続財産が共有に属することを定める規定です。
例えば、父親、母親、長男、次男の4人家族がいて、父親が財産を残して亡くなった場合、父親が被相続人となり、母親、長男、次男は相続人となります。そして父親の財産は、一旦母親と長男と次男(相続人)の共有財産になります。
父親の遺産を母親、長男、次男で分割する前に、相続人の一人が勝手に遺産を処分すると、相続人間でトラブルが生じ、公平ではなくなります。このような理由から、遺産分割前に遺産を処分できないように共有にするのです。
たとえば故人に銀行預金がある場合、銀行は死亡を知った時点で遺産が勝手に処分されないように、預金を凍結する措置を取ります。
遺産分割協議
一旦、相続財産は複数いる相続人の共有財産になります。そして、この共有状態を解消するために「遺産分割協議」、つまり家族会議が必要です。この遺産分割協議がまとまって、各相続人の相続財産が決定すれば、共有状態が解消されて、財産の処分が可能になるのです。
民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
1、共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、いさんの全部又は一部の分割をすることができる。
「遺言書」の作成
相続は揉め事がつきものです。
相続人間の仲が悪かったり、遺産分割が不平等であったりetc、、、
相続における揉め事を事前に防止するためには「遺言書」の作成が有効です。
「遺言書」には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。
「自筆証書遺言」
・遺言者が全文を自筆で書きます
・よって費用はかかりません
・しかし形式の不備や偽造を原因として無効になるリスクがあります
「公正証書遺言」
・遺言者が公証人に内容を伝え、公証人が作成します
・よって公証人に手数料を支払う必要があります
・形式の不備や偽造のリスクが低く、無効になりにくいです
「公正証書遺言」は費用がかかりますが、無効になる可能性は非常に低いです。対照的に、「自筆証書遺言」は書き方に誤りがあると無効になる可能性が高くなります。
遺言書が無効となるリスクは大きな問題を引き起こす可能性があるため、将来のトラブルを避けるためには「公正証書遺言」を選ぶことが望ましいと思われます。
相続における3つの選択肢
相続の方法として、以下の3つの中から選択をすることができます。
相続の3つの選択肢
① 単純承認 全ての財産を引き継ぐこと(全ての権利・義務を引き継ぐこと)
② 相続放棄 全ての財産を引き継がないこと(全ての権利・義務を放棄)
③ 限定承認 プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐこと
注意点と補足は以下のとおりです。
・②相続放棄と③限定承認は相続開始から3月以内に家庭裁判所に申出が必要
・限定承認は使いづらい
・限定承認が使われる場面
✔②相続放棄と③限定承認は相続開始から3月以内に家庭裁判所に申出が必要
②相続放棄と③限定承認は、被相続人が亡くなった日から3か月以内に家庭裁判所に申出を行わないと、これらの相続はできずに、自動的に単純承認したことになってしまいます。
したがって、例えば故人が多額の借金を残していた場合、相続を望まないならば、家庭裁判所に申出をしなければなりません。そうでなければ、単純承認とみなされ、相続人はその借金を負うことになります。
✔限定承認は使いづらい
相続放棄は個人で行うことができます。つまり、複数の相続人がいても、一人だけが相続放棄を選択することが可能です。しかし、限定承認は全相続人に関わる問題なので、全員での合意が必要です。また、3ヶ月の期限があるため、合意に至らないことが多く、実際には利用しにくい制度です。
✔限定承認が使われる場面
1、故人の借金の額が不明のときに使われる
相続財産はあるから相続したいけど、故人がどれだけの借金を背負っているか分からない場合は、限定承認で相続をすれば、少なくともマイナスになる事はないのでリスクをなくした状態で相続できます。
2、自宅を確保したいときに使われる
故人が多額の借金を抱え、債務超過の状態である場合、相続放棄をすると自宅を失うことになるといったときに、自宅を保持したい場合は限定承認を利用できます。限定承認により、自宅の価値を超える借金は免除され、単純承認するよりも有利になります。
遺産分割の仕方
✔遺言書の有無
遺言書があれば、それが優先され、遺言書通りに遺産分割を行います。しかし、遺言書があっても遺産分割協議を行ってその内容を変更することもできます。
遺言書がなければ、遺産分割協議によって遺産分割を行います。
✔遺産分割の方法
遺産分割には以下の4つの方法があります。
・現物分割 現金、土地などの遺産を相続人間で物理的に分ける
・代償分割 遺産を取得した相続人が、ほかの相続人に代償金を払う
・換価分割 遺産を売却し、それで得たお金を相続人間で分ける
・共有分割 遺産を複数の相続人の共有名義とする
遺産分割の流れ
これまでの復習も兼ねて、遺産分割の流れを確認します。
被相続人の死亡により相続が開始します。そして相続人が複数人いるときは、相続財産は共有財産となり、その処分が禁止されます。
遺言書がある場合は、遺言書に基づいて遺産分割を行います。しかし、遺言書の内容に関わらず、遺産分割協議によって遺産分割を変更することができます。
遺言書がない場合は、遺産分割協議を行います。協議が成立すれば、分割協議書を作成します。協議が成立しなければ、家庭裁判所が間に入って調停を行います。調停が成立すれば、調停調書を作成します。調停が成立しなければ、審判に移ります。
審判とは家庭裁判所の裁判官が当事者の主張や証拠を基に判断を下す手続です。調停が不成立の場合に行われます。審判では、裁判官が最終的な決定を行い、その決定に従う必要があります。
これらの経緯を経て無事に遺産分割が終われば、財産の処分禁止は解除されます。
相続のポイント
相続は民法の規定に基づいて行われます。相続財産は一旦共有財産となり、遺産分割協議で分割されます。遺言書の作成や相続方法の選択は重要なポイントです。
「自筆証書遺言」にはリスクが伴うため、「公正証書遺言」の選択が好ましいです。
さらに、相続放棄や限定承認の選択には期限があるため、注意が必要です。